節分だろ?
節分?
あれだよ、鬼を豆で追っ払うやつ。
鬼? 鬼ってどういうことだよ。
鬼は鬼さ。
ということで、対鬼戦用に豆小銃(豆鉄砲とも言う)を作成。
さらにマシンガンを対鬼戦用に豆鉄砲に改造。
発射テストを行う。
良好だ。
さてそうこうしている間に、鬼の出没情報が携帯電話によって知らされた。
iコンシェル、便利。
豆小銃は部屋において、マシンガンを装備する。
すぐさま現場へ向かう。
マシンガンを構え、鬼がいるであろう場所へ。
デデーン!
鬼登場。
マシンガンを連射。
鬼の顔に、胴に、(ピー)に当たる。
鬼は倒れた。
「ありがとうございます」
襲われていた人がお礼を。
「いえいえ、気をつけてください」
携帯電話の震え。
鬼の情報だ。
我が家だ。
我が家へ向かう。
留守を狙うとは、なんというこすからい奴だ。
家に入る。
電気をつける。
マシンガンを構える。
靴を脱ぐ。
リビングに鬼はいた。
マシンガンを連射する。
しかし、すばやい動きで鬼はそれをかわした。
エージェントだ!
しかし、とりあえず連射をつづける。
するとお決まりの弾切れ。
いや、豆切れ。
マシンガンを投げ捨て、近接対決を挑む。
鬼は拳を握り、さあこい、というなんとも舐めた態度だ。
ダッシュで近づく。
そこで右へ飛び、壁を足で蹴って、宙を飛ぶ。
鬼の背後を取って、背中を思い切り蹴る。
鬼が倒れる。
すぐさま蹴りが飛んでくる。
バク転して避ける。
立ち上がった鬼に、右の拳を繰り出す。
はじかれる。
鬼の右手が来る。
止める。
右足で胴体を狙う。
左足で受け止められる。
せいけん突き。
避けられる。
部屋干し用の物干し竿を装備し、振り回す。
鬼はハンガーでそれを受けた。
右から左から正面から。
次々と攻撃するが、ことごとく鬼はかわす。
むしろ反撃を受ける。
ハンガーを使って鬼は物干し竿を絡め取った。
まずい。
逃げる。
どこに?
部屋に。
部屋にはそう豆小銃(別名、豆鉄砲)が。
それをつかみ、リビングに戻る。
すると鬼はどこから持ってきたのか、金棒を持っている!?
豆小銃を鬼めがけて発射。
そう、引き金を引いている。
エージェントよろしく、鬼が避ける。
隙を狙って、鬼に向かって波動拳を使うと、鬼は目を覆ってよろめいた。
隙あり。
豆小銃を打ち込み、決め台詞。
「鬼は外、福は内」
鬼、撤退。
決め台詞。
「はーひふーへほー」
銃口の煙を吹く。
一度、やってみたかった。
※この話はフィクションです。
実在する人物、団体とは一切関係ありません。
2,3日前、僕が下校しているときに、小学生が数人でわいわいがやがや騒ぎながら歩いていた。いつもなら「うるさいなぁ」と思うだけだけれど、その時は「小学生のころって、どんなふうだったっけ」と思った。なんでも面白かったっけ。背丈はどんなだったかな。大人を見上げる感覚ってどうだったかな。
忘れていることがたくさんあることに気がついた。
下校中に走ったり、傘で剣道遊びをやったり、後悔しなかったり。
今の方がいいこともたくさんあるけど、あのころの感覚も悪くなかったよな、と思う。
私がパン売り場の前へ行くと、ちょうど店員が値札のシールを貼りはじめた。
「やったぜ! イェイ」と内心で歓喜の雄叫びをあげながら、店員がシールを貼り終わるまで待つ。すぐ横の、なぜかパン売り場には置いていないサンドウィッチを眺めたり、飲み物売り場を覗く。店員の方を見てみると、まだ十個分くらいしかシールを貼っていない。時間かかるなあ、と思いパン売り場をしばらく離れることにした。
カップ麺を見たり、アイスを見たり、お菓子を見たり、プリンを見たり、健康ドリンクを見たり、またアイスを見たり。
パン売り場に戻って、どこまでシールを貼ったか確認してみた。ん? まだ半分も終わっていないではないか。早く頼むよ。
文具売り場へ移動し、時間を潰すことにした。時間がもったいない、とは思ったが本は持ってきていないのだ。
しかし、大して時間は潰せなかった。理由はカンタンでスーパー、特に田舎になれば文具売り場というところは大変貧相なコーナーなのだ。ろくろく見るものもない。
雑誌を立ち読もうにも、私の興味をそそる雑誌は見当たらない。
食器、そういえばこの前マグカップを買った。
果物、美味そうではあったが、試食はできないようだ。
暇つぶしを探しにスーパー内をうろつく。なんとも迷惑な客である。
どれくらい探しただろうか、結局妥当なものは見つからなかった。
仕方ない、もう一度パン売り場へ向かった。
シールは貼り終わっていた。どのパンも二,三十円の値下げを完了させている。暇つぶし探しの旅は、暇つぶしになっていたらしい。
「やった、買える」私はテキトウに二,三個のパンを取って、レジへ行った。
家に帰ってから、その話を母にしたら笑われた。
「そんなのわざわざ待たなくていいんだよ」
「どういうこと?」私は少し、むすっとしている。
母はさっと手を前に出して「『これ、どれくらい値下げできますか?』とか言えばいいんだよ」と言って笑った。
そんな、と私は母のやり方にいちゃもんをつけた。
「そういうことはさ、出かける前に言ってくれよ」私は値下げシールの貼ってあるパンを持って、部屋に引っ込んだ。
ミュージックを聴きながら本を読んでいる時、携帯電話の着信音が鳴った。
僕はため息を吐き出しながら、イヤホンを外した。携帯電話の画面を見ると、そこには震える受話器と現代文の先生の名前が表示されていた。
何ごとか、と思い受話器を上げると、先生の快活な声が飛び出してきた。
「もしもし、どうかしたんですか?」
「あぁ、陣内君? 明日って漢字のテストあったよねぇ?」
「えぇ、今もちょうどその勉強してました」僕はさり気なさを装い、嘘をつく。
「いや、それが悪いんだけど、明日学校に行けないのよ」さも残念そうな声だ。少し芝居がかっているようにも聞こえる。
「それは! 本当ですか?」大げさに言う。
「そう、本当なの。だからね、明日のテストは延期しようと思って」
「そうですかぁ、それは残念ですねえ」嬉しいです。
「だから、明日の現代文の時間に自習課題を持っていってほしいんだけど」
「自習課題ですか」残念です。
「そう、昨日わざわざ学校に行って作っておいたのよぉ。偉いでしょう」
「本当ですか? 祝日なのにわざわざ学校に? いやぁ、さすが先生は違いますねぇ」
「でしょう?」電話の向こうで快活に笑っている声が、聞こえた。
拓海はペンを走らせていた。
彼の学校では図書室にリクエスト用紙なるものが置いてある。そこに新たに図書室に置いてほしい本の名前を書いたり、その本についてコメントを書いたりすると、取り寄せてくれるかもしれない、という制度だ。
彼には読みたい本があった。ユダヤ警官同盟。マイケルシェイボンの書いた本で、すでに3冠達成だとか。マイケルは過去にピュリッツァ賞を受賞した作家で、拓海はそんな作家の書く本とはどんなものなのだろうか、と気になった。
早速、図書室を訪れた。リクエスト用紙を探す。入り口から少し進んだところで辺りを見回していると、リクエスト用紙はこちらです、と書かれた札を見つけた。よし、と思いその札のもとに近づいたが、そこには何も置かれていなかった。リクエスト用紙も、それが入っているだろう箱すらない。どういうことだ、と疑問に思う。これではこの制度がある意味がないではないか。もう1度よく探してみるが、やはり見当たらない。
仕方ない、そう思い司書室を訪ねることにした。先生に聞くのが手っ取り早い確実な方法だろう。司書室は図書室のすぐ隣りにあった。戸を叩く。
「どうしたの?」司書室の先生が現れた。のっそりしている。
「リクエスト用紙っていうのが見つからないんですけど」
「なかった? おかしいわね」おっとりとしたその先生は司書室の中に引っ込みながら応える。
「おかしいですよねえ」先生の後を追いながら返事をした。
先生は棚をほじくっている。用紙を探しているのだろうか。待っている間、この後の予定を整理したりした。
「ちょっと待ってね、これ切らなきゃだから」先生は大きめの紙を持ってきた。1枚に4つ分のスペースが作られている。
「ああ、手伝いますよ」
「ありがとねえ」
「いえ」
紙の束を渡された。それを半分に折る。折り目に沿って切ろうとする、が切るための道具がなかった。うーん、どうしよっか。周りを見渡すとハサミがたくさん入っている缶を見つけた。おっ、これを借りようかな。拓海が手を伸ばしたとき、先生がカッターを渡してきた。
「これ使ってね」
「あ、ありがとうございます」カッターを受け取った。折り目に刃をあてると、すっと滑るように割けた。けっこう気持ちいいな。余韻に浸りつつ、切った用紙を先生に渡すと、お礼を言われた。照れる。
用紙を1枚渡された。そこにリクエストしたい本を書いてきてね、と付け加えられる。
「はい」
図書室の方へ引っ込み机に腰掛けた。ポケットからボールペンを引っ張り出す。えっとなに? まずリクエストしたい本の題名は、ユダヤ警官同盟(上・下)っと、オッケー。次は作者名ね、マイケル・シェイボン。値段? 知らねえよそんなの、飛ばそう。社名は、たしか新潮だった気がする。本について一言、ひとことね、オッケ。
リクエスト用紙に必要事項を書き、立ち上がってふたたび司書室に向かった。
ノックする。
「先生、書きました」
「あぁ、はいはい」
先生は少し腰を上げて用紙を受け取った。ふと何かを思い出したように顔を上げる。
「そういえば、君が伊坂幸太郎のファンなんだっけ?」
一瞬、えっ、と遅れる。あぁ、伊坂幸太郎か。そういえば前に現代文の先生に話したことがあったけ。
「ええ、そうですね。ファンです」
「じゃあ、重力ピエロ読んだ?」
「読みました読みました。面白かったですねえ」
「ねえ、私あれ好きなのよぉ」柔らかく微笑んでくる。
「そうですか、僕も好きですよ」本当に好きだったので特に偽ることなく答えた。伊坂幸太郎の作品はどれも好きだ。
「それじゃあ」そろっと教室に、と思い出口に向かう。しかし声をかけられた。
「あぁ、必ず取り寄せるというわけではないからね」
「わかってますよ、大丈夫です」なにが大丈夫なんだ、と思いつつ司書室をあとにした。